下部消化管グループ

当科の大腸がん診療の特徴

腹腔鏡手術

「腹腔鏡手術」とは、腹腔鏡という直径約1cmの細長いカメラをお腹の中(腹腔)に入れ、そのカメラからの映像をモニターに映して、そのモニターを見ながら行う手術のことです。この「腹腔鏡手術」の利点として、(1)おなかの傷が小さいこと、(2)手術後の痛みが少ないこと、(3)お腹のなかの環境に与える影響が少ないために手術後の胃腸運動の回復が早く、術後早期から食事が摂取できること、(4)入院期間が短く、仕事や家庭への復帰が速やかなこと、(5)腹腔鏡の近接、拡大視効果により、肉眼では見えにくい細い神経の温存など、より繊細な手術ができること、などが挙げられます。近年では多くの施設で、患者様にとって身体への影響が少ない「腹腔鏡手術」が選択されるようになってきています。腹腔鏡手術の低侵襲性(身体に負担が少ないということ)は多くのエビデンスが報告されています。我々も確かな技術と経験を持ったスタッフが腹腔鏡手術を行っており、現在まで約2000例以上の腹腔鏡手術をおこなってきました。腹腔鏡下大腸切除術の教育・修練施設として若手外科医の指導、育成にも積極的に取り組んでいます。現在までに11名の日本内視鏡外科学会技術認定医(大腸)を輩出し、各々が横浜市立大学附属病院、横須賀共済病院、藤沢市民病院、NTT東日本関東病院などで責任者として大腸の診療にあたっています。

腹腔鏡下手術の適応

広範な他臓器浸潤例、巨大腫瘍(径8cm以上)は除外しています。

腹腔鏡下側方リンパ節郭清

外来化学療法



診断から治療までの流れ

  • 消化器病センターを初めて受診された場合、まずは治療方針決定のために「がんの状態」、「全身の健康状態」について検査を行います。
  • 速やかに治療を開始するために、初診当日に可能な検査を行い、必要な検査(CT検査、内視鏡検査、MRI検査など)を予約します。
  • 治療方針は、専門医がチームで協議のうえ決定します。
  • 閉塞性大腸がんや局所進行直腸がんに対して、集学的治療を行っています。
  • 内視鏡治療の適応に関しては、内視鏡チームと綿密にディスカッションしています。

横浜市立大学病院付属市民総合医療センターのクリニカル・パス

  • 当院の大腸癌の術後平均在院期間は6日です。
  • 術後の回復を促進するプログラムとなっています。
当センターのクリニカル・パス

大腸がんについて

大腸とその区分について

大腸は、食道・胃・十二指腸・小腸から連続し、右下腹部から時計回りにお腹の外周を一周して肛門へとつながっています。長さは1.5mほどで、水分の吸収と便の貯留・排出などが主な機能です。
下図のごとく、大腸は、口側から盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸とならぶ「結腸」と、これに続いて肛門にいたる「直腸」に大きく分けられます。とくに直腸は便の貯留と排出に非常に重要な役割を担っています。

大腸の図

大腸癌取り扱い規約第8版から引用

 
大腸がんの症状について

大腸がんが小さいうちは、ほとんど症状がありません。がんが大きくなってくると、下血(肛門から出血する)、腸閉塞(腸がつまって便やおならがでなくなる)や穿孔などの症状がみられるようになります。

大腸がんの内視鏡写真
原発性大腸がん手術症例数と腹腔鏡手術の割合
大腸がんの病期分類
  • Stage0:がん病巣が粘膜内にとどまる(粘膜内がん、上皮内がん)
  • StageⅠ:がん病巣が腸管壁の筋層までにとどまり、リンパ節に転移をみられないもの。手術後の補助化学療法(抗がん剤治療)は行いません。
  • StageⅡ:がん病巣が筋層より深く浸潤し、リンパ節に転移をみられないもの。手術後の補助化学療法については、一部の症例において現在全国規模の多施設共同研究に参加し施行しております。
  • StageⅢa:がん病巣の深達度に関わらず、リンパ節転移が3個以下のもの。術後の補助化学療法は標準的に行います。
  • StageⅢb:がん病巣の深達度に関わらず、リンパ節転移が3個以上のもの。術後の補助化学療法は標準的に行います。
  • StageⅣ:他臓器や遠隔リンパ節に転移がみられるもの。

大腸がんの治療方針

基本的には大腸癌治療ガイドライン(大腸癌研究会編、2014年版)に則った治療を行っています(図1)

内視鏡的摘除

内視鏡的に一括切除が可能な粘膜内~粘膜下層軽度浸潤がんは、まず内視鏡治療を先行します。

内視鏡的摘除

(大腸癌治療ガイドライン2014年度版から引用)

病理診断で(1)垂直断端陽性、(2)粘膜下層浸潤度1,000μm以上、(2)脈管侵襲陽性(3)低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌、(4)浸潤先進部の簇出(budding)Grade 2/3、のいずれかに当てはまれば、手術(リンパ節郭清を伴う腸切除)を行います。

外科的切除

StageⅠ~Ⅲはリンパ節郭清を伴う根治手術(がんの病巣から十分に離れた部位で腸管を切除し、栄養血管の根元を切離してリンパ節を十分量切除する方法)を行います。術後の切除標本に対する病理組織検査で最終的な病期の進展度、すなわちStageが確定します

S状結腸切除術の切除範囲

実際のS状結腸切除術の摘出標本

StageⅣ大腸がんの治療方針

原発巣、転移臓器の状況によって、最適な治療方針を選択します。

原発性大腸がん手術症例数と腹腔鏡手術の割合

(大腸癌治療ガイドライン2014年度版から引用)

原発巣と転移巣の切除が可能な場合

原発巣と転移巣の切除

原発巣は切除可能だが、転移巣は切除不可能な場合

原発巣、転移巣とも切除以外の治療
ただし、出血、狭窄などの症状を伴う原発巣は切除を考慮することがあります。

原発巣は切除不可能だが、転移巣は切除可能な場合

原発巣、転移巣とも切除以外の治療

原発巣と転移巣の切除が不可能な場合

原発巣、転移巣とも切除以外の治療
*近年の新たな抗がん剤や分子標的治療などの発達に伴って、長期生存が得られる症例もあります。また、これらの治療によって切除不可能ながんが切除可能になること(conversion)もあります。特に肝臓や肺への転移では、切除によって生存の延長が期待できますので、conversionを目指します。

大腸癌手術後の追加治療について

手術で切除した組織(大腸、リンパ節など)を詳細に顕微鏡で調べ、がんの種類、深達度、リンパ節転移、脈管侵襲などをチェックし、がんの最終的な病期(進行度)が決まります。病期は、抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療などの追加治療の必要性や予後の判断基準となります。術後補助化学療法は術後4~8週頃までに開始し、一般的には6か月間の投与を行います。
>> 大腸癌診療ガイドライン

術後合併症について

手術後には以下のような合併症が起こることがあります。

感染

手術後はお腹の傷やお腹の中に細菌感染を起こし化膿することがあります。膿(うみ)を外へ出す処置や手術が必要になることがあります。2015年の当科での創感染率は7.6%でした。他に、腸炎などにより入院が長引くこともあります。

縫合不全

吻合部(腸と腸を縫い合わせたところ)から腸液(便)が腸の外に漏れることを縫合不全といいます。縫合不全の状況によりますが、長期の絶食や体外からのドレナージ(お腹の中に漏れた腸液を外へ出すチューブを入れる処置)などが必要になることがあります。また、縫合不全の程度がひどい場合には、再手術をして腹腔内を洗浄し、ドレナージ、一時的な人工肛門*を造設すること(腸の縫合部より口側の腸をお腹の外へ出すこと)もあります。2015年の当科での縫合不全率はtotal 5.7%、結腸 1.9%、直腸 11.3%でした。
*縫合不全が治癒し、狭窄や再発のないこと、肛門機能を確認したうえで、約3ヶ月後に人工肛門閉鎖手術を行えば便がもとの肛門から出るようになります。

術後出血

吻合部(腸と腸を縫い合わせたところ)からの出血に対して、大腸内視鏡による内視鏡的止血術や再手術による止血を行うことがあります。術後にお腹の中に出血が起これば、再手術をして出血を止める処置が必要になることがあります。また、出血量が多い場合には輸血を要することもあります。 尚、2015年の当科での術後出血は1.3%の患者さまに発生しました。

腸閉塞

術後は一時的に腸の動きが悪くなり、腸管麻痺が遷延することもあります(麻痺性腸閉塞と言います)。また、腸と腸や、腸とお腹の傷が癒着したり、捻れたり、腸がはまり込んだり、など、様々な原因の腸閉塞が生じることがあります。腸管の減圧目的で、鼻から胃や小腸にチューブを入れる処置や、手術が必要になることがあります。尚、2015年の当科での術後腸閉塞は5.6%の患者さまに発生しました。

がんの部位、進行度や併存疾患(持病)の程度や全身状態などによって、上記以外の合併症を生じることもあります。

進行した直腸がんに対する治療戦略(集学的治療)

局所進行直腸癌に対して、

  1. 原発腫瘍の縮小
  2. ダウンステージ、
  3. 微小転移の制御などを目的として、術前放射線化学療法や術前化学療法をおこなって手術へと繋げていきます。

治療例

原発性大腸がん手術症例数と腹腔鏡手術の割合

直腸がんに対する肛門温存手術

近年まで肛門に近い直腸がんに対しては、肛門も切除する「直腸切断術」が施行され、永久人工肛門となることを余儀なくされていました。最近では、今までであれば永久人工肛門となっていた肛門に近い直腸がんでも、一定の条件を充たせば、自分の肛門を残せる超低位直腸切除術、ISR(括約筋間直腸切除術)が行われるようになってきました。これらの手術では縫合不全を予防し、良好な肛門機能を温存するため一時的な人工肛門を造設しますが、再発の無いことや肛門機能に問題のないことを確認して、約3か月を目途に一時的人工肛門を閉鎖する手術を行います。その後は、自分の肛門からの自然排便が可能となります。

原発性大腸がん手術症例数と腹腔鏡手術の割合

Schiessel R, et al. Br J Surg 81:1376-78, 1994から一部改変

大腸がんに対する化学療法

大腸がんに対する化学療法は、近年飛躍的に進歩しています。次々と新しい抗がん剤が承認され、新しい治療法も開発されています。大腸がんの化学療法はここ数年で最も進歩した分野です。

1.フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬

5-FUは体内でFdUMPやFUTPに代謝され,DNA合成阻害やRNA合成阻害により抗腫瘍効果を示す。大腸がんに対する化学療法の治療の最も基本的な薬剤で,Capecitabine やUFT, TS-1などの様々なプロドラッグが開発されています。

2.白金製剤

大腸がんでは日本で開発されたオキサリプラチン(エルプラット)が用いられます。オキサリプラチンはDNAに結合し複製,転写を阻害します。5-FUとオキサリプラチンを併用したFOLFOX療法は大腸がんに対するfirst choiceの世界標準の治療です。CVポートを留置して、外来で化学療法を行います。

3.トポイソメラーゼI阻害薬

CPT-11(カンプト)は日本で開発された薬剤です。FOLFIRI療法、CPT-11/S-1療法、CPT-11単独投与など、患者さんにあった治療が選択できます。下痢、吐き気、脱毛などの副作用がある薬剤ですが、CPT-11の代謝に関連するUGT1A1の遺伝子多形を検査し、投与量を調節します。

4.血管新生阻害剤

Bevacizumab(アバスチン)が代表的な薬剤です。がんが増殖するには酸素、栄養補給路として、血管新生が必要であることが知られています。血管増殖因子のVEGFは大腸がん、乳がん等の各種がんで高発現していることが明らかになっています。アバスチンはこのVEGFを阻害しがんを兵糧攻めにします。
抗がん剤との併用で生存期間の有意な延長を認めています。まれに消化管穿孔、出血、などの重篤な副作用を生じることもあります。

5.EGFR阻害剤

Cetuximab(セツキシマブ)、Panitumumab(パニツムマブ)が代表的な薬剤です。がん細胞が増殖するために必要なシグナルを受け取るEGFR(上皮成長因子受容体)というタンパク質を標的としています。がん細胞表面のEGFRに結合し、シグナル伝達が遮断され、がん細胞は増殖できなくなります。RAS遺伝子に変異のある患者さまでは抗腫瘍効果が期待できないことがわかっています。

6.マルチキナーゼ阻害剤

大腸癌治療においてはRegorafenib(レゴラフェニブ)が代表的な薬剤です。腫瘍の血管新生や細胞増殖などに関与する複数のプロテインキナーゼの活性を阻害する経口の分子標的治療薬です。主に進行再発大腸癌の三次治療以降に用いられます。

7.ヌクレオシド系抗悪性腫瘍剤

TAS-102はトリフルリジンとチピラシル塩酸塩の合剤です。トリフルリジンはフッ化ピリミジン系抗腫瘍薬同様にチミジル酸合成酵素を阻害すると共に,DNAに取り込まれることによって抗腫瘍効果を発揮します。また、チピラシル塩酸塩がトリフルリジンの分解を阻害することで血中濃度を維持します。主に進行再発大腸癌の三次治療以降に用いられます。