肝胆膵グループ

肝胆膵グループは主に肝臓、胆道、膵臓の病気を扱うグループです。
肝胆膵領域のがんに関する専門領域の知識と技術を基に、安全に根治性および術後の生活の質(Quality of life: QOL)を考慮し、可能な限り個々の患者さまのご希望に応えることを目標にしています。

【初診をご希望の方】
平日9:00-12:00まで受け付けております。
予約から初診までの日数は、3-5日程度です。

【手術の待ち日数・時間】

治療方針が確定してから治療開始までの日数 4-6週間
入院日数 2週間程度


肝臓・胆管・膵臓の病気の治療に関するご案内です。

肝臓がん

1. 原発性肝がん (肝細胞がん)

肝細胞がんは肝臓の細胞から発生する“がん”であり大部分がB型肝炎やC型肝炎などのウイルス肝炎が原因で発症するとされていました。
しかし、最近では肝炎ウイルスを持たない方からの非B非C肝細胞がんというものが増加傾向にあります。
これには非アルコール性脂肪肝炎(NASH)といった新たな原因が考えられています。
これらの肝細胞がんの治療では、“がん”そのものの根治的な治療と、背景となる肝臓の病気の治療が必要です。

当科では、肝細胞がんに対する治療は、外科的な手術を中心に、ラジオ波焼灼療法、マイクロ波焼灼療法、肝動脈(化学)塞栓療法などを、患者さんの状態や“がん”の進行度に応じて選択し行っています。
“がん”が多発して完全切除が困難な場合でも、大きい“がん”は手術で取り除き、それ以外の小さいものには分子標的治療薬や動脈塞栓化学療法を行うといった集学的治療も積極的に応用しています。
横浜市立大学肝胆膵グループは、800例を超える肝細胞がん患者さんに外科的治療を施行した経験があります。これら外科的治療をおこなった患者様の治療成績を下図の生存曲線で示していますが、他施設と比較して遜色ない成績です。
また、手術後は“がん”の再発の予防のみならず、背景となる肝病変に応じた治療が必要であり、肝炎ウイルス治療なども積極的に行っています。

[ 肝細胞がん手術後のステージ別生存曲線 ]
  1年 3年 5年 10年
I期 100% 97.2% 81.4% 54.9%
II期 94.3% 83.7% 70.0% 49.9%
III期 91.7% 68.7% 50.0% 31.0%
IV期 82.2% 54.1% 37.4% 25.5%

2. 転移性肝がん (肝転移)

肝転移あるいは転移性肝がんとも呼びますが、これらは肝臓から“がん”ができてくるのではなく、他の臓器にできた“がん”が肝臓に転移したものです。
したがって、一般的には“がん”の末期的な状態と誤解されがちですが、元となる“がん”の種類によっては手術治療が非常に有効な疾患があります。
なかでも現在、積極的な外科的治療が行われているものは大腸がんの肝転移です。

大腸がんの肝転移では、1970年代より、単発の肝転移(転移が1個だけのもの)に対して肝切除が試みられるようになり、良好な治療効果が得られることが確認されました。
その後、複数個の肝転移にも手術の適応を拡げていき、他の治療法では得られない良好な成績が確認されたため、現在では肝切除が大腸がん肝転移の第一選択の治療法と認識されるようになりました。
最近では、診断した時には転移個数が多数、あるいは大きすぎるという理由で手術が困難な場合でも、まず抗がん剤による治療を一定期間行った上で、転移の個数を減らしたり小さくしたりした後に、肝臓手術を行うといった治療が行われています。このような治療をコンバージョン治療と呼んでいます。

当科の肝胆膵疾患チームは、このような多数の大腸がん肝転移を切除する治療を積極的に行っています。

婦人科疾患の転移性肝がんや、神経内分泌腫瘍、消化管間葉系腫瘍、胃がんなどからの転移性肝がんの一部も外科的切除で良好な治療効果が得られることが知られていますので、このような転移に対しても積極的な切除を心掛けています。

横浜市立大学肝胆膵グループでは現在まで800例を超える大腸がん肝転移患者さんに対して外科治療を行ってきております。
下記に、大腸がん肝転移肝切除後の転移個数別生存曲線を記載します。

大腸がん肝転移肝切除後の転移個数別生存曲線

5年生存率はそれぞれ、転移個数1個66.6%、2個62.3%、3個43.4%、4個以上35.7%であった。

胆管がん

胆管がんは、胆管に発生する“がん”で、その部位によって呼び名が異なります。
胆管とは肝臓で作られた消化液の一種である胆汁を十二指腸まで流す通り道のことで、肝臓と胆管の関係は、肝臓を木の葉っぱとすると枝が幹に向かって徐々に太くなるといった木の構造に似ています。
つまり胆管は肝臓内の細い管に始まって、何本もの細い胆管が次第に集まって太くなり、肝臓の外に出て2本の太い管(左肝管・右肝管)になって肝門部で1本に合流し、膵臓の後方を通って十二指腸乳頭部に開口しています。
途中で、胆汁をためておく袋がありますが、これが胆のうです。このうち、いずれの部位にも胆管がんは発生しますが、がんができた場所によって性質や治療法が異なるために以下のように細かく分類されています。

  1. 肝内胆管がん (肝臓の中の胆管に発生したがん)
  2. 肝門部領域胆管がん (肝門部周囲の胆管に発生したがん)
  3. 遠位胆管がん (胆嚢管が分かれて、膵臓に入っていくところに発生したがん)
  4. 胆のうがん (胆のうに発生したがん)
  5. 十二指腸乳頭部がん (乳頭部の胆管に発生したがん)
 
肝外胆道系の区分
 

[肝外胆道系の区分]

1. 肝内胆管がん

肝臓の中の細い胆管の上皮から発生するがんで、一般には原発性肝がんの一つとして扱われています。
原発性肝がんの90%~95%は前述の肝細胞がんですが、残りの約5%が肝内胆管がんです。近年、少しずつ発生頻度が増加していると報告されています。

肝内胆管がんの治療は、手術が可能であれば腫瘍を含む肝臓を切除する肝切除が第1選択です。
またリンパ節にがんが転移していることもあり、同時にリンパ節を取る手術も行います。
がんの範囲が肝臓の外まで拡がっている場合は、太い胆管を切離して小腸とつなげたりする手術(胆管空腸吻合術)が必要となることもあります。
一方、手術ができない場合は化学療法を行いますが、この領域にはまだ標準治療とされる抗がん剤治療の方法がありません。
症例ごとに相談してゲムシタビン、TS-1、シスプラチンといった抗がん剤を組み合わせて治療を行っています。

2. 肝門部領域胆管がん

肝門部領域胆管がんは、肝臓の入り口(肝門)の大きな胆管に発生するがんです(「胆道がん取扱い規約第6版より引用」を参照)。

この部位にがんができると、しばしば黄疸と言って体や眼球結膜(しろ目)の部分が黄色くなったり、尿が紅茶のような色(褐色尿)になったり、便が白くなることがあります。
このように黄疸がある患者さんでは、がんによって狭くなった胆管内をうまく胆汁が流れなくなっているので、管を通して黄疸を改善させて、肝機能を正常な状態に戻してから手術を行います。
この場所のがんはしばしば、肝臓の奥の方までがんが進展していることが多く、胆管だけでなく、胆管と一緒に肝臓を切除します。
右側の胆管にがんがあれば右側の肝臓(肝右葉切除)を、左側の胆管にがんがあれば左側の肝臓を切除します。
この肝門部領域胆管という部位は胆管のほかに、門脈や肝動脈といった大事な血管が近くを走っていてがんがこれらの血管に食いついている(浸潤といいます)している場合は、それらの血管(門脈・肝動脈)も合わせて切除してがんを取り残さないようにすることが大切です。
一方、肝門部領域胆管がんに対する手術は切除する肝臓の範囲や、合併切除する血管を再建したりする必要があり、大手術になることが多く、患者さんにとっては非常に大きな侵襲(ストレス)になります。
このため、術後合併症の頻度は、通常の肝切除のみの場合と比較して高く、時には命の危険と隣り合わせとなることもあります。
当科ではこのような大量肝切除や血管合併切除・再建を伴う複雑な肝切除をより安全に行うためにいくつかの工夫をしています。

転移を起こしていたり、局所(がんの周り)が進行しすぎていたり、肝機能が悪くて肝切除が難しかったり、全身状態が不良で手術に耐えられない場合は、抗がん剤治療や放射線治療を行います。
また手術を行ってがんを取り除いた患者さんでも、術後の顕微鏡検査の結果などを参考にして抗がん剤治療を行う場合があります。
どのような抗がん剤を使うのかについては、前述のように確立した標準治療はありませんが、ゲムシタビン、TS-1、シスプラチンといった抗がん剤を組み合わせて治療を行っています。


肝門部領域胆管の目安

(胆道がん取扱い規約第6版より改変引用)

3. 遠位胆管がん

胆のう管が合流した部位から膵臓の内部を走行する胆管に発生するがんです([肝外胆道系の区分]の図を参照)。
この場所にがんが発生すると、胆汁の流れが妨げられ閉塞性黄疸となります。
治療法としては、手術、抗がん剤治療、放射線治療があります。
現在のところ最も治癒の可能性が見込まれるのは手術です。
遠位胆管は膵臓の内部を通るため、膵臓の一部(膵頭部)と十二指腸を一緒にとる必要があります。
この手術を膵頭十二指腸切除術と言います。
遠隔臓器(肝臓や腹膜、肺、骨など)転移などで切除ができない場合には、ゲムシタビン、TS-1、シスプラチンといった抗がん剤を組み合わせた抗がん剤治療や放射線治療を行います。


膵頭十二指腸切除術
 

[膵頭十二指腸切除術]

4. 十二指腸乳頭部がん

十二指腸乳頭部は胆管の終着点ですが、この場所で膵液の通り道である主膵管と合流して乳頭部を形成しています([肝外胆道系の区分]の図を参照)。この十二指腸乳頭部に発生してくるがんが乳頭部がんです。十二指腸乳頭部がんも手術が最も治癒の可能性のある治療法であり、遠位胆管がんと同様に膵頭十二指腸切除術を行います。乳頭部がんは小さな病変でも、胆管の出口をふさいでしまうので比較的早期に黄疸などの症状が出るため多くの場合で手術による切除が可能ですが、遠隔転移などで切除ができない場合には、抗がん剤治療(ゲムシタビン、TS-1、シスプラチン)や放射線治療を行います。

5. 胆のうがん

胆のうは胆管の途中にある袋状のもので一時的に胆汁を貯留しておくところです。
この場所に発生してくるがんが胆のうがんです([肝外胆道系の区分]の図を参照)。

胆のうがんは、その進行具合によって大きく早期胆のうがんと進行胆のうがんに分けられます。
早期胆のうがんは、胆のうの内側の壁(粘膜といいます)や筋層にがんがとどまっている状態で、胆のう結石症の人に対して行われるような通常の胆のう摘出術で治療できます。
一方、胆のうの筋層の外側の壁(漿膜といいます)、また胆嚢がくっついている肝臓にまでがんが及んでしまうと進行胆のうがんと区分され、この場合は肝臓や胆管の周りのリンパ節を同時に切除しなければなりません。
肝臓の切除範囲は、胆のうがんがどこまで拡がっているかによって決まりますが、肝右葉切除などの大きな肝切除が必要となることもあります。
また胆管とつながっている胆のう管から遠位胆管の方へ広がっていると、前述の膵頭十二指腸切除を行うこともあります。
このように胆のうがんはがんの広がりによって胆のうを取るだけではなく肝切除や膵頭十二指腸切除などの手術を一緒に行うことがあります。
胆のうがんもこれまでの胆管がんと同様に遠隔転移などで切除ができない場合には、抗がん剤治療(ゲムシタビン、TS-1、シスプラチン)や放射線治療を行います。

すい臓がん

すい臓は胃と大腸の後ろに背骨と挟まれるようにして存在しています。膵臓には3つの働きがあります。

  1. 食物の消化;膵液(消化酵素を含む)の分泌
  2. 肝門部領域胆管がん (肝門部周囲の胆管に発生したがん)
  3. 胃酸の中和;膵液(アルカリ性)
  4. 血糖の調節;インスリン(血糖を下げる)

この場所に発生してくるがんがすい臓がんです。
すい臓がんの標準的な治療法は、手術(外科治療)、抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療の3つです。

がんの広がりや全身状態などを考慮して、これらのうちの1つ、あるいは複数を組み合わせた治療(集学的治療)が行われます。
がんが膵臓にとどまっている場合は、手術と補助療法(通常は抗がん剤治療)を組み合わせて行います。
膵臓がんが大事な血管を巻き込んでいたり、別の臓器に転移したりして手術ができないときは、放射線治療や抗がん剤治療が行われます。

肝臓手術の工夫

1. 3DCT画像の応用

従来の平面的なCT画像以外に、下に示すような立体的画像をCT画像から再構築して、肝臓切除の際に応用しています。
これにより3次元での肝臓解剖の把握が容易となり、手術の安全性を高めることが可能です。
肝臓は“木”と同じような構造をしており、葉っぱの部分が肝臓に相当します。
“木”の構造では葉っぱの中には多数の枝が分岐しているわけですが、この枝は肝臓の中では血管に相当します。
この血管の枝ぶりを術前に把握したり、枝ごとに養われている肝臓の領域を異なった色で描出したりすることが3DCTでは可能です。

[ 3DCT画像 ]

3DCT画像


[ 術野への画像診断の応用 ]

肝臓内の特定の血管で栄養される領域を投影した図
2. 腹腔鏡による肝臓手術

できるだけ、体に優しい手術を目指して、一定の条件を満たしているような場合、腹腔鏡を利用した肝臓手術も行っています。現在、複数の施設で腹腔鏡下肝切除術が行われるようになってきましたが、当科では都立駒込病院方式の腹腔鏡下肝切除術を採用しています。

2. 腹腔鏡による肝臓手術

現在、複数の施設で腹腔鏡下肝切除術が行われるようになってきました。
当科でも、できるだけ体に優しい手術を目指して、一定の条件を満たしているような場合には、腹腔鏡を利用した肝臓手術を行っています。

[ 腹腔鏡手術の様子 ]

術中の3D画像の応用
 

[ 肝臓の右葉を切除した直後のおなかのきず ]

肝臓の右葉を切除した直後のおなかのきず
 

切除した大きな肝臓は下腹部のビキニで隠れるラインできずから取り出しています。

3. 計画的2期的肝切除(多段階肝切除)

肝臓手術を行う際、特に肝臓の大部分を切除する必要があるような手術の場合(大量肝切除と呼びます)、残る肝臓が少なくなりすぎて生命を維持できなくなることが重要な問題となります。
このような状態は肝不全と呼ばれ、黄疸が出たり、腹水でおなかがパンパンになったりする致命的な状態です。

このような大量肝切除を安全に行う方法として計画的2期的切除という方法があります。
肝臓は一部を切除するとただちに元のボリュームに戻ろうと再生が起こります。
この再生速度は非常に速く、一部の肝硬変の肝臓を除けば、切除後1週間で元のボリュームの約7~8割、1ヶ月で8~9割に戻り、半年もすれば元の用量に戻るといわれています。


[ 肝臓の再生曲線 ]

肝臓の再生曲線
 

1度で全ての病巣を切除すると残りの肝臓が足りなくなる場合、この肝臓の再生を利用して手術を敢えて2回に分割して、2回目までの手術の間に肝臓の再生を期待する計画的2期的肝切除(多段階肝切除)を行い安全性を確保します。
下図のような肝臓の“がん”の患者様で、左の列でCTで示す黄色点線の部分しか残せないような場合(シェーマの青色部分)、始めの手術で向かって右側(体の左側)の肝臓を切除し、しばらく待つと右の列のCTの黄色点線部分のように、病巣のない残すべき肝臓部分が大きくなります。

肝臓
 

その後、向かって左側(体の右側)の肝臓を切除して、元々の黄色点線で囲んだ部位が右列のCTのように大きくなって安全な残存用量を確保できます。

肝臓
 

この手術に際には、多くの場合、門脈塞栓術という肝臓に入る血管のうち摘出予定の肝臓部分に入る血管の流れを止めるような処置も同時に施行します。

以上、当科の肝胆膵チームで行っている治療の一部を紹介しました。
技術的な事のみならず、私たちスタッフは、全ての患者様を治療に当たるスタッフの身内の方と同じであると思いながら、常に丁寧な治療を心がけております。